矢口 敦子さんの『人形になる』 不思議な読後感の小説

人形になる

人形になる

重度の身体障害者であるが故にあきらめていた恋の世界に、ふとしたきっかけで足を踏み入れていく・・
人として生きること、その延長線上で恋を手に入れた結末を描いている。
きっかけとなった瑞江さんが死んで。
その死は周りの人には恋人に捨てられたための自殺と映るが、真相は「人形に近づこうとして失敗した」愛の結末に驚愕する。
男は「人形のような」理想の女と暮らし始める。
それまで大切にしていた自作の人形たちは、無造作に部屋の片隅にひとまとめにされて埃をかぶっていく。
この描写が真実が明かされていく時に、薄気味悪く浮かび上がってきて。
そして無垢な人形にしか愛を感じない男のために、「人形になる」女。
それこそが自分の生きている証拠として。
この小説を評した渡辺淳一さんは女が何の病気で常時呼吸器を手放せない常態かを問うていたが、あえて病気を書かないことで生々しくない「人形」が完成したすごい作品だと思う。
この発想は何?どこから?という気持ち悪さを抱えてなお矢口敦子さんの感性が好きだー
何冊も矢口ワールドを読んだ末に今更ながらに作者のプロフィールをのぞくと・・
先天性心臓病のため小学5年生で就学猶予その後通信教育で大学文学部、法学部卒とある。