矢口敦子さん 『あれから』 温かい思いで胸がいっぱいになった

あれから

あれから

[過去]ある朝、父親が電車内で痴漢をし咎めた男性を線路に墜落しさせてしまったと知らされる。
姉妹は偶然出会った大学生たちの力を借りて、父の汚名を晴らそうとする。
[現在]看護師として働く千幸の前に、いまわしい過去の人が現れる。
そして明らかになっていく悲しい真実・・


ほんの短い第一章[現在]で、私の心は鷲づかみにされる。
不器用な男友達と千幸の再開とその後。
過去と現在を繰り返しながら明らかになっていく真実。
またしても、最後まで読まないと終われない――小説に捕まってしまう。
いや、捕まりたくて表紙をめくるのだけれど――
これから読まれる方は、時間のたっぷりある時をお勧めします。


線路に転落して亡くなった大学生の妹(瑞恵)と千幸の会話。
「お互い、つらい過去なんか、ぐじゃぐじゃしゃべりあう必要はないわ。若いんだもの。未来に視線を向けるべきよ」
シチュエーションを異にして二度語られる言葉。
最初は瑞恵から千幸に向けて。二度目は千幸から瑞恵に向けて。
心の色と重なって深いグラディエーションを描いた。
明日からの糧となるような温かい色合いで。


そして最後まで不器用だけれど誠実な「男友達」に涙した。